NEIL INNES 来日大特集
長年抱きつづけた夢がついに実現、Neil Innes
が念願の来日を果たした。2001年2月2、3、4日に東京高田馬場AREA、6日には大阪心斎橋のミューズ・ホールにてライブを行った。招聘元はVINYL JAPAN、
輸入盤を扱うレコード店で、Bonzos、Neil
のレコードを探している人達にとっては馴染みの名前ではないだろうか。彼の作品がほとんど日本盤としては(欧米でも)発売されてないながらも東京最終日のチケットは売り切れ、
結果的に4日間のショーがたくさんの人で埋まったのを見て、長年彼の来日を待ちわびた人が大勢いるのだなぁと感慨深くなってしまった。日頃招聘元の彼らが
Neilのレコードを積極的に扱ってきたことも決して無関係ではないと思う。それにしても東京3Daysというのは少々驚いたなぁ。
一昨年ごろからNeilは英国のみで"Innes Own Words"というトゥアーを始めた。しばらくソロでのライブ・ショーという形式から遠ざかっていたようだが、
これをきっかけに音楽活動にも再び本腰を入れたようだ。ギター、バンジョー、ピアノの弾き語りで各曲を演奏し、曲の合間をトークで綴るといったコンサート。
話の内容は今までの自分のキャリアをユーモア溢れる語り口で聞かせてくれるとっても愉快なものだった。日本での彼の評価はおもに音楽家としての部分だと思うのだが、
このコンサートでの彼はまた一流のコメディアンなのだということを知らしめるには充分だったと思う。僕はPOOLEとNORWICHのショーを見たのだが、
どちらもオーディエンスとの掛け合い抜きには成立しないコンサートだった。トゥアーのタイトルもそのスタイルから来ているものと思われる。
セットの内容は
(SET 1) | (SET 2) |
01.I'm the urban spaceman 02.Short blues 03.Crystal balls 04.medley (On her doorstep last night (I'm Going To Bring A Watermelon To My Girl Tonight (Button Up Your Overcoat (My Brother Makes The Noises For The Talkies 05.I want to tell you 06.Song in French accent (Love is getting deeper) 07.Protest song 08.City of the angel 09.Say sorry again |
10.How sweet to be an idiot 11.Brave Sir Robin 12.I must be in love 13.Double back alley 14.With a girl like you 15.Good times roll 16.Another day 17.Cheese & onions 18.Dreams shine through 19.Mr.Eurovision 20.Godfrey Daniel 21.Questionnaire 22.Cats don't like rain 23.Slave of freedom 24.Never alone |
さてついに日本公演が決まったのだが、こっちでも英国でのトゥアーと同じ内容でやることはちょっと無理があるということをNeil
本人も承知していたようで、何かアイディアが必要だった。一番大きな問題が言葉。彼のお喋りを日本人の皆が理解出来るとは到底考えにくく、
またコメディーに於いても英国人では誰でも知っているベタなギャグがこっちで通用するとは思えない。さらに彼は観客がオール・スタンディングということにかなり驚いていた様で
「どうやって2時間も立ったまま聴いてられるのだ」、また「Crazy」とも言ってもいた。結局彼が出した結論はバンドと一緒に演奏し音楽中心のライブ構成にすること。
そこで日本でのサポートは長年彼の活動を記事にしてきたライターにしてミュージシャン、和久井光司
氏が旧知の実力派ミュージシャンに声をかけ、日本だけのスペシャルバンドが共演することが決定した。
BONZO DOG TOKYO DOO DAH BAND
和久井光司 (ギター、コーラス、パーカッション)
日戸修平 (元ARB、難波弘之バンド/ リード・ギター)
高橋教之 (レベッカ/ ベース)
伴 慶充 (ヒート・ウェイヴ/ ドラムス)
海野知子(tp)
渡辺明子(tb, fl)
高木 明(sax)
残念ながら大阪ではこのバンドの共演が実現しなかった模様。
ライブ・リポート
4日分のセット・リストは別表に示すが、ここでは東京最終日2月4日のショーのリポートを書くことにしよう。この日のみゲストとしてMorgan
Fisher(ラブ・アフェアー、モット・ザ・フープルなど)がキーボードとしてバンドに参加した。
ショーは2部構成で(彼自身の言葉を借りると)ファースト・ハーフはソロ、そしてセカンド・ハーフはBONZO DOG TOKYO DOO DAH BANDを従えてのバンドセット。
初日はゆっくりしゃべるなど日本のオーディエンスに対して手探り状態だった彼だが、案外彼の言葉に反応する日本人が多いことが分かりこの日は初めから全開。
銀髪になった“ラトルズ・ウィグ”(かつら)をかぶって登場し、1曲目は「恋のスペース・マン」。唯一日本で発売された
Bonzosのシングルは当時こういう邦題だったのか。演奏後「ヒット・メドレーでした」といきなりギャグかましていたが本当に唯一のヒットなのが悲しい。
「Short Blues」で眠りながらでもブルースギターの腕前を見せつけ、次の「Crystal balls」
でカントリー・ミュージックにも造詣の深いところを証明してくれた。ギターをバンジョーに持ち替え
「You all like country music?」 「I say, you all like country music??」
これが合図。この曲では観客も参加して盛り上げるのだが、3日間とも通った人が多かったのだろう、この日の反応は最高! リフレインでは
Crystal balls (balls!)
To fortune tellers
Reveal a swarm
of what-will-bees (zoom zoom zoom zoom)
All in all Like clocks and watches (BONG - CUckoo!)
We got time on our hands and destinies
と赤字のところは皆で歌うところ。ちなみにBONGは男性、
Cuckoo!は女性のパート。
演奏後は「ありがとー」の連発、他にも「またね」とか日本語をしゃべっていた。コメディアンNeil Innes
の繰り出すジャパニーズ・ギャグは少し古めのものが多い。多分バンドのメンバーが教えたのだろう。
「ガチョーン」、「シェー」、「ナハ、ナハ」等アクション付き?のギャグばかりだが教えた人の年齢がうかがわれる。「あぃ〜ん」は面白かったけど…「歯磨けよ」は上手く言えなかったね。
初日のアンコールでBonzosの曲をリクエストされてからか2日目より
Bonzosナンバー「Jollity Farm」が登場。
次はNeilがフレンチ・アクセントで歌う「ラヴ・イズ・ゲッティング・ディーペル」。
ニホヒホの大合唱はちょっと不気味だった。
「Mr. Eurovision」「Godfrey Daniel」と好対照な2曲が続くが、実はこの2曲の歌詞は同じことを意味しているのではないだろうかと思う。
サンレモ音楽祭に出てくるそりゃぁヒドイ歌を自分でも作ってみたという「Mr. Eurovision」の歌詞はこれまたどうでもいいんだよとでも言っているようだし、
一方Bernie Taupin*に捧げるといった「Godfrey Daniel」
は全てのソングライターはポピュラー・ソングに哲学的な歌詞をつけたがることを皮肉っている。無意味に大げさに歌われたポップソングは酷い物だと…。
(*バーニー・トーピン、Elton John作品の作詞者。おホモ達とも)
「Cats Don't Like The Rain」「Evening Sun」「Never Alone」の3曲はあまりなじみのない曲だと思うが後半2曲は新曲。
「Never Alone」大好きです、次のアルバムに収録希望。彼自身の話だとうまくいけば年内にニュー・アルバムを出したいとのこと。
彼の家にはスタジオがあって「Recollections」のためのリミックスもここでやっているようだ。僕は幸運にも新曲のラフを聴かせてもらったことがあるのだが、
残念ながらレーベルなどの詳細はまだ分からない。情報が入り次第知らせる予定です。
楽器をキーボードにかえてラトルズメドレー。(今度は本当にメドレー!)これらの曲は本当にメロディーが素晴らしい。
ビートルズのパロディーだからと彼のところへ正当に印税が入らないというのは悲しむべき事だと思う。現在の出版クレジットはInnes/ Lennon/ McCartneyになっているそうだ。
以前日本だけで発売されたCD RUTLAND WEEKEND TELEVISION SONG BOOK に収録された「Protest
Song」。これの面白さといったら見た人しか分からないとても文章には出来ないのだけれども、まるでボブ・ディランのような風貌の盲目の歌手が演奏するといった設定だ。
にもかかわらず、初日Neilは小道具のサングラスを忘れてしまい、この曲のシチュエーションを変更せざるえなかった。一瞬困った顔をした彼だがこの日だけのキャラクターを作って切り替えした姿はさすがだった。
ファーストハーフのハイライトは「Slaves of Freedom」。
Grimmsのアルバムに収録のこの曲は日本のファンには馴染みはあまり無いのだが、Neilのコンサートの定番曲だ。
なんてモダンなコンセプトなのだと自画自賛している彼だが、コール&レスポンスで展開されるこの曲で会場は既に最高潮!
FREEDOM で締めくくられた掛け合いも日本特別仕様でとってもキマッていた。
いつもは SOD OFF で締めくくるのだが下品な言葉だし、意味がわからなきゃ面白さ半減だし、FREEDOM 最高でした。
15分ほど休憩時間の後、セカンドハーフ。
1曲目は「How Sweet To Be An Idiot」。伝説のダックハットをかぶったイディオットを見て涙した人も多いことだと思う。
僕もその口だ。ここからがバンドセット。Neilが「東京に来て以来素晴らしい時間を過ごしています。
そして本当の親友達に会うことが出来ました」と言うと、つぎにBONZO DOG TOKYO DOO DAH BANDのメンバーを一人一人紹介した。
“Count Basie on Triangle!” 彼ら全員ダックハットで登場! とはいってもROCIKIN‘DUCKのアルバム・カバーに付いていたおまけの帽子だったが…マニア度高いです>和久井氏。
多分ライブでは日本で演るのが初めてじゃないかと思える「Here We Go Again」。
エンディングのブラスが危なくなるのがご愛嬌だけどNeilもそれを楽しんでいるよう。
彼は1曲1曲終るとメンバーの方を振り向き、まるで彼らをねぎらうような仕草で笑いかける。バンドとの演奏を心から楽しんでいるようで見ているこちら側も楽しくなってしまう。
「Libido」からはMorgan Fisherも参加。まさかリビドーが生で…日本のファンはつくづくラッキーだなぁ。
「Stoned on Rock」の印象的なイントロ(やり直しだったけど)に感動し、
「Human Race」 「Not Getting Any Younger」と演奏は続く。
Neilはこのバンドのリズム隊のことをたいへん誉めていて、「彼らはワールド・クラスだ」とも言っていた。
「Not Getting Any Younger」を書いたとき、今まさにこの年齢になってこの歌を歌うことを予期していたのだろうか。
「Eine Kleine Middle klasse Musik」Neil自身のフェイバリットソング。
アーキオロジー収録の曲はどれも素晴らしいのだけれども、彼自身もあのアルバムにはそうとうな自信を持っているに違いない。
初日のセットはわりと他のアーキオロジー収録の曲が多かったような気がしたが、この日は和久井氏のギターの弦を取り替えている間に
「Lonely-Phobia」がボーナスで聴けて得した気分。ありがとう>和久井ギター。後半の3曲はもう盛り上がるしかないといった展開。
「I Must Be In Love」「Shangri-La」「Get Up and Go」
前半は笑いを多く含んだステージ、後半はバンドでのハンサムなNeil。初日とは違って曲の合間に言うジョークは既にもう早口になっていたが…。
某オエイシスの話題にも触れ、―「How Sweet To Be An Idiot」そっくりの「Whatever」という彼らの曲があるのだけど、その曲のイントロをお返しに
「Shangri-La」に使ったんだよ―と言っていたけど、著作権だとか盗作だとかNeilは本当についていない人だと思う。
このコンサートでは観客の表情がとてもよかった。つい顔が緩んでしまう、そんな表情をしていて皆心からショーを楽しんでいることが見て取れた。
おおよそアンコールは初めから予定されているといった日本の悪しき習慣なのだろうが、観客全員まだ聴き足りないといった感じだった。
演奏時間も日に日に長くなっていったし、バンドのコンビネーションも良くなっていった。
ただNeilが体調不良からかミスをする場面がこの日は目立ち、和久井氏はじめ他のメンバーがフォローするようになっていた。
お〜これがバンドだよ。「Back in
'64」では和久井氏の新聞パーカッションがハイライト、
2日目から急遽追加されたという「Love life」で観客全員大合唱で2度目の幕。
さらに観客は2度目のアンコールを要求し、そこでNeilが歌った曲はなんと「Burlesque」!!
まさかこの曲を日本で聴けるとは思わなかった。まぁ、ひじょうにタイムリーな話題として英国では労働党のゲイ大臣として有名だったピーター・マンデルソン氏の辞任がニュースになっていたけど。
これで本当の最後、東京の公演は全て終った。
日本での初めての彼の公演、僕が見た東京3日間は大成功だったと思う。短い期間で見事なコンビネーションを作り上げたバンド、それに素晴らしい反応を見せたオーディエンス。
大阪公演でも、出来れば当初にNeilが意図したとおりバンドが付いて欲しかった。
もちろんNeil一人でも素晴らしいのだが、JAPANトゥアー全公演がイーブンな条件であればもっと良かったのではないか。
それに残念な事に大阪ではNeilの体調は悪化し、コンディションはあまりよくなかったと伝え聞く。
しかしながら、大阪でも観客の大きな声援によってショーの方は大盛況だったということだ。
出来ればまた彼を日本で見られる機会が訪れてもらいたいと思う。